
コーチたちはこの前の国スポシングルス予選はどうだったの?

祐蔵コーチはベスト8、就蔵コーチは準優勝したみたい。
でも就蔵コーチは準決勝まで失ゲーム0で勝ち上がったのに、
決勝では1-④で負けちゃったんだって。

えっ!? そこまで調子良かったのに急にどうしたの?

決勝に入った瞬間から足が動かなくなって、
打ちごろのフォアのミスが多くて、視野も狭い感じがしたって言ってた。

それって…ただの緊張?

コーチも最初はそう思ったらしいけど、後から振り返ったら、
ただの緊張じゃなくて「チョーキング」っていう現象が起きてたって気づいたんだって。
みんなもこんな経験はありませんか?
「練習ではできるのに、試合になると全然ダメだった」
「大事な場面で身体が固まった」
「いつもの自分じゃなかった」
それは気持ちが弱いわけでも、やる気がなかったわけでもありません。
今回は、3日前に行われた僕自身の国スポシングルスの決勝戦を
自分自身の振り返りも兼ねながら、
チョーキングとは何か、なぜ起きるのか、どう向き合えばいいのかを選手のみんな、
そして保護者の方にも共有したいと思います。
チョーキングとは何か
「やる気がないから負けた」の正反対
チョーキングとは、1984年にスポーツ心理学者のバウマイスターが提唱した概念で、
「プレッシャー下でパフォーマンスが低下する現象」のことです。
ここで大事なのは、チョーキングは「やる気がないから負けた」とは真逆だということ。
「勝ちたいからこそ、崩れた」——これがチョーキングの本質です。
日本語で言えば「あがり」が近い言葉ですが、チョーキングはもう少し深刻で、
実力がある選手が、勝つ気も十分にあるのに、普段できていたことができなくなる現象を指します。
単に「緊張して調子が出ない」のではなく、普段できていた動きそのものが壊れてしまうレベルの話です。
どのくらいの選手が経験しているか
「自分はメンタルが弱いから…」と思っている選手に知ってほしい事実があります。
ある研究で165名のアスリートを調査したところ、77%が過去1年間にチョーキングを経験していました。
しかも、平均で年18回。現役選手の55%は過去1ヶ月以内に経験していると回答しています。
チョーキングは「メンタルが弱い選手に起きる特別な失敗」ではありません。
ほとんどの選手が繰り返し経験している、ごく普通の現象です。

77%…! ほとんどの選手が経験してるんだ。

うん。チョーキングは"弱さ"じゃなくて、"本気の証"なんだよ。
決勝で何が起きていたのか
ここからは、僕自身の体験をスポーツ心理学の視点で振り返ってみます。
症状①:足が動かなくなった
決勝で最も感じたのは、足が動かないという感覚でした。
普段の練習や準決勝までは自然に動いていた足が、半歩くらい合わない感じ。
これはスポーツ心理学で「自由度の凍結」と呼ばれる現象です。
難しい言葉ですが、簡単に言うと「身体がフリーズする」ということです。
普段、僕たちの身体はたくさんの関節や筋肉がバラバラに、でも絶妙に連動して動いています。
ところがプレッシャーが強くなりすぎると、この連動が止まってしまい、
まるでロボットのように身体全体が硬くなってしまいます。
足の筋力が落ちたわけでも、体力が尽きたわけでもありません。
脳がプレッシャーに反応して、身体の動きにブレーキをかけてしまったのです。
症状②:打ちごろのボールでミス
フォアハンドの打ちごろの球。 普段なら何も考えずに打ち込めるボールで、何度もミスをしました。
不思議だったのは、打つ前にコースのイメージはできていたこと。 「ここに打とう」と頭では分かっている。 でも、いざ振り始める瞬間に、思い切りよくいけない。
これは症状①の「足が動かなくなった」と同じ原因です。 プレッシャーによる身体のフリーズが、足だけでなくスイングにも出ていたのです。
頭の判断は正常に働いている。コースも見えている。 でも、身体がブレーキをかけていて、判断と動きの間にズレが生まれてしまう。
普段なら「こう打とう」と思った瞬間にスムーズに身体が動くのに、 その「思う→動く」のつながりが途切れてしまっている感覚です。
結果、スイングが中途半端になったり、力が伝わらなかったりして、 打ちごろのボールなのにミスが出る。
簡単な球ほど「普段通りに打てるはず」という感覚とのギャップが大きいから、余計に焦る。 そして焦るほど、さらに身体は硬くなっていく——という悪循環に陥ります。
症状③:相手の動きが見えなくなった
もうひとつ、決勝で感じたのは視野が狭くなったことです。
準決勝までは相手の動き出しやコートの空きスペースが自然に見えていたのに、
決勝ではボールしか見えないような感覚になりました。
これは「トンネルビジョン」と呼ばれる現象です。
名前の通り、トンネルの中にいるように視界が狭くなることを指します。
強い緊張状態になると、身体は「戦うか逃げるか」モードに入ります。
そのとき脳は「目の前のことだけに集中しろ!」と指令を出して、
周りの景色を見る機能をオフにしてしまいます。
普段のラリー中は、ボールや相手のラケットを見ながらも、相手の体の動きやコートの空きスペースが"なんとなく"視界に入っています。
でもトンネルビジョンが起きると——
- ボールは見える → だから打ち返せる
- 相手の動き出しやポジションが見えない → だからコースが読めない
- コートの空きスペースが見えない → だから攻めどころが分からない
「相手の動きが見えなかった」というのは、気のせいでも集中力の問題でもなく、
脳のストレス反応として実際に起きていたことだったのです。

身体も目も、脳が勝手にコントロールしちゃうんだ…。怖い。

でも、「なんで起きるのか」が分かれば対策も見えてくる。
原因が分かるだけで、次は少し違う戦い方ができるよ。
なぜ「決勝」で起きたのか
準決勝まで失ゲーム0——つまり、ほぼ完璧な内容で勝ち上がっていました。
なのに、なぜ決勝でいきなり崩れたのか?
答えは「その試合にかける意味の大きさ」にあります。
脳は試合の重要度を常に感じ取っています。
「決勝」「優勝がかかっている」——
こうした状況になるほど、脳は「もっと集中しろ!」と身体のスイッチを上げていきます。
この「集中スイッチ」が適度なら、パフォーマンスは上がります。
でも上がりすぎると、身体が過剰反応を起こし始めます。
足が固まり、視野が狭くなり、考えすぎて動きが壊れる。
これは自分の意思でコントロールできる範囲を超えた、脳の自動的な反応です。
だから「気合いが足りなかった」「集中しろ」では解決しません。
チョーキングへの対策
チョーキングを完全に防ぐのは難しいです。
でも、起きにくくする方法と起きたときの対処法はあります。
試合中にできること
① ポイント間に「遠く」を見る
トンネルビジョンは、視野が中心に集中しすぎている状態です。
ポイントの合間に、コートの奥のフェンスや壁を一瞬見る。
これだけで周辺視野が「開く」スイッチになります。
② 「考える時間」と「感じる時間」を分ける
これは「考える力」の記事でも書いた内容と同じです。
- ポイント間に「次の1本で何をするか」を1つだけ決める
- ラリー中は考えるのをやめて、ボールだけを見て身体に任せる
考えすぎて動きが壊れることへの一番の対策は、ラリー中に考えないことです。
身体がフリーズしているときほど、頭で動きをコントロールしようとすると逆効果になります。
練習で積み重ねてきた自分の身体を信じましょう。
③ 身体に「外向き」の刺激を入れる
研究では、利き手と反対の手でボールをギュッと握る動作が、
プレッシャー下でのパフォーマンス低下を防ぐ効果があると示されています。
これは、「考えすぎている頭」をリセットするテクニックです。
ポイント間に、ラケットを持たない手でボールをギュッと強く握る。
意識的に身体を動かすことで、フリーズした身体に「動いていいよ」と合図を送るイメージです。
試合前にできること
④ 自分だけの「ルーティン」を持つ
サーブの前に必ずボールを4回つく。
レシーブの前に必ず同じ構えをする。
ポイント間にガットを触る。
こうした「毎回同じ動作」を決めておくと、
「次に何をするか」が決まっているから、不安が入り込む隙がなくなります。
研究でも、ルーティンはプレッシャー下で最も効果が大きい対策とされています。
⑤ 試合の「意味づけ」を変える
「絶対に勝たなきゃいけない」と思うほど、脳の「集中スイッチ」は上がりすぎてしまいます。
勝敗ではなく、「今日はこのプレーをやりきる」という過程に集中しましょう。
「挑む力」の記事でも書いたように、
結果ではなく過程に目を向けることで、プレッシャーのかかり方が変わります。
長期的にできること
⑥ プレッシャー下でのトレーニングを積む
練習で意図的にプレッシャーをかけましょう。
たとえば——
- 「次の1本で決める」という場面を作る(マッチポイントからスタート等)
- デュアルタスク(二重課題)(計算しながら打つ等)
- 周囲に見られている状況を作る
こうした環境に繰り返し身を置くことで、プレッシャーに「慣れる」ことができます。
脳が「この程度のプレッシャーは普通だ」と学習すれば、本番でもスイッチが上がりすぎにくくなります。

全部知ってたら、コーチも決勝で違ったかもしれないのに…。

知っていても起きるのがチョーキングなんだ。
でも、知っているのと知らないのとでは、次の戦い方が全然違うよ。
選手のみんなへ——コーチからのメッセージ
正直に言います。
決勝で負けて、とても悔しかったです。
実力で負けたなら納得できます。でも、自分のテニスができなかったのが、何より悔しかったです。
チョーキングは「弱さ」じゃありません。
77%の選手が経験しています。
勝ちたいと思っているからこそ起きる。
本気で戦っている証拠です。
だから、試合で実力が出せなかったとき、
「メンタルが弱い」「根性が足りない」で終わらせないでください。
足が動かなくなったのは、脳がプレッシャーに反応しただけ。
視野が狭くなったのは、身体のストレス反応。
打ちごろの球でミスしたのは、考えすぎて身体が覚えた動きが壊れたから。
全部、理由があります。理由があるなら、対策ができます。
僕自身、この経験を次の大会に必ず活かします。
そしてこの知識を、CrossSportsの練習やレッスンの中で選手のみんなにも伝えていきます。
一緒に、プレッシャーと戦える選手になりましょう。

自分の負けをここまで正直に書くなんて…。

失敗を隠さないこと。それも"挑む力"のひとつだと思うよ。
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